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会社の収益性を測る指標について
会社を経営していくうえで、その収益性は大変重要な指標となります。
「そもそもウチの会社って儲かってるの?」
このような疑問は、特に資金を提供している株主にとっても大変気になるところでしょう。
もちろんその会社で働く社員にとっても自分の会社の経営状態がどうなのか?ということについて知っておくことは決して損にはなりません。
今回はこのような会社の収益性についての指標を全部で8つご紹介します。
収益性を測る指標①:ROA(総資本経常利益率)
会社の収益性を測る分析手法の中で投資効率がうまくいっている会社かどうかを調べる指標としてよく使われるのが、今回紹介するROAになります。
ROAは、Return On Assetsの頭文字をとった略語で総資本利益率と訳されます。
意味としては、会社の総資産を使ってどれだけの収益を上げることができたのかを示す指標となります。
会社経営の元手となるものは、貸借対照表の右側に記載されている負債と資本を合わせたものになります。
負債と資本の合算を総資本といいます。
ROAのポイントは次のとおりです。
- ROAの数値が良い会社は出資者にとって魅力的
- ROA社内の比較ではなく、同業他社と数値を比較したときに役に立ちます
①ROA(総資本経常利益率)の計算方法について
総資本経常利益率(ROA) = 経常利益 / 総資本 × 100
ROAの目安となる数値:5%
- この比率が高いほど、総資本の活用度が高く他社と比べて多くの利益を生み出す力がある
- この比率が低いほど、総資本の活用度が低く経営の総合力が弱いといえます
このようにROAは自社ではなく同業他社と比較する際によく使われる指標となります。
それではこのROAを使って自社の比率を計算する例を挙げてみます。
上図のとおり計算すると、この会社のROAは4.2%であることが分かります。
この数値をもとに同業他社のROAを算出して、他社と比較して自分の会社を比較するという次第です。
収益性を測る指標②:ROE(自己資本当期純利益率)
前項でROAについて解説しましたが、似たような指標としてROEというものがあります。
収益性分析の手法でROAと同様に重要度の高い指標にROEがあります。
会社が事業を活動する際の元手となるのは貸借対照表の右側の部分、負債と資本となります。
この負債と資本を合わせたものを総資本といいますが、このうち資本の部分に注目しています。
(返済する必要のない自分の)資本をもとにどれだけ収益を上げているのかを示しているのがROEとなります。
この貸借対照表の自己資本と、損益計算書の当期純利益(税引き後)をもとに計算していきます。
- ROA:Return On Assetsの頭文字をとった略語で、総資本利益率と訳されます。会社の総資産を使ってどれだけの収益を上げることができたのかを示す指標となります。
- ROE:Return On Equityの頭文字をとった略語で自己資本比率と訳されます。元手となる総資本のうち、自己資本がどれだけ効率よく利益を生み出しているかを示す指標となります。
②ROE(自己資本当期純利益率)の計算方法について
自己資本当期純利益率(ROE) = 当期純利益 / 自己資本 × 100
ROEの目安となる数値:10%
- この数値が高いほど、自己資本の活用度が高い
- この数値が低いほど、自己資本の活用度が低い
多くの企業では自己資本の大部分を株主が出資した資本金が占めているため、ROEは株主が出資したお金を効率的に使っているかの目安となります。
しかし、経営の状態が悪化して自己資本が縮小しているような場合にはこの数字での比較はできないことに注意してください。
それではこのROEを使って自社の比率を計算する例を挙げてみます。
上図で算出したROE比率は6.67%となりました。
この数値だけを見ると、自己資本の有効活用があまり適切ではないということが分かりました。
収益性を測る指標③:売上高総利益率
会社を経営するうえで注目するべきなのは会社の収益力です。
せっかく会社を運営していても儲かっていなければ意味がありません。
ここではこうした会社の稼ぎの基礎となる商品力を示す、売上高総利益率についてみていきます。
上図のとおり、会社の収益力を測るには、損益計算書からどれだけ売り上げを上げているのかについててとその売上に対してどれだけの利益が出ているのかについてをみていくことで分かります。
売上高や利益の額は、会社の規模によって異なるので数字の大きさだけをみて良し悪しを見るのはあまり得策ではありません。
- 同じ売り上げを上げたらどれだけの利益を稼いでくれるのか
以上の観点から収益性を示す数値を導き出し、その数値を同業他社と比較することが重要になってきます。
③売上高総利益率の計算方法について
売上高総利益率 = 売上総利益 / 売上高 × 100
目安となる数値:20%
- 数値の割合が高いほど、商品の売れる力が高い
- 数値の割合が低いほど、商品の売れる力が低い
売上高総利益率を算出することで、この会社の商品の粗利益はどのくらいなのか、つまり商品の売れる力がわかります。
それではこの売上高総利益率の簡単な例を挙げてみたいと思います。
上図のように売上高総利益率を算出することができます。
上図の例では売上高総利益率は18%なので、まずまずの商品力があるといえるでしょう。
逆にこの数値が10%や5%などかなり低い数値となった場合には、現行の商品には売れる力つまり購入者にとっては魅力のある商品ではない可能性が高いです。
ですので商品を改善したり、別の商品を開発するなどして数値の修正が求められるということです。
収益性を測る指標④:売上高営業利益率
売上高営業利益率は、本業で儲ける力が強いのかどうかを示す指標です。
この数値が高ければ会社の営業力や販売力は高く、逆にあまり高くなければ営業力が弱いと考えられます。
上図のとおり営業利益は売上総利益から販売費と一般管理費を差し引いたものになります。
つまり、商品やサービスを販売するためにかかった営業費用とそれにかかる一般管理業務費用を差し引いたうえでどれだけ会社に利益が残っているのかを示すものです。
この残った利益が売上高に対してどのくらいの割合なのかをあらわしたのが、売上高営業利益率になります。
販売にかかる費用(販管費)がかかりすぎると営業利益がマイナス(=営業損失)になってしまいます。
営業利益がマイナスだと本業で利益が出ていないということなので、かなり危険な状態といえます。
④売上高営業利益率の計算方法について
売上高営業利益率 = 営業利益 / 売上高 × 100
目標となる数値:4%
- この比率が高いほど、本業の収益力が強いことを示します
- この比率が低いほど、本業の収益力が弱いことを示します
③売上高総利益が順調であるにもかかわらず、売上高営業利益率の比率があまり良くない場合は、販売費および一般管理費(販管費)が高すぎることを意味するため、比率を上げるためには販管費を抑えるなどの改善が必要となります。
それではこの売上高営業利益率の例をあげてみたいと思います。
上図のような損益計算書だったばあいには上図右のように計算式に数値を当てはめて計算してみます。
すると算出された数値は4.210%と出ました。
目標数値である4%を上回っていることからこの商品の収益力が高いといえるでしょう。
この数値からは販管費についても妥当であると考えることができます。
収益性を測る指標⑤:売上高経常利益率
会社の収益性を測る指標として最も重要であるとされているのが、売上高経常利益率です。
- 売上高営業利益率:会社の本業で稼ぐ力をみる
- 売上高経常利益率:会社の本業と資産運用など総合的な稼ぐ力をみる
会社の運営は本業の営業活動だけではなく、資産運用や借入などの財務活動も行なっています。
このような本業以外の活動で発生する収益を営業外収益、費用を営業外費用といいます。
営業外収益
- 受取利息
- 受取配当金
- 有価証券売却益
- 受取家賃など
営業外費用
- 支払利息
- 手形売却損
- 有価証券売却損など
⑤売上高経常利益率について
売上高経常利益率 = 経常利益 / 売上高 × 100
目標となる数値:4%以上
- この比率が高いほど、会社の総合的な収益力は高い
- この比率が低いほど、会社の総合的な収益力が弱い
売上高経常利益率は、業種によってばらつきがあるため、業界の平均値を上回っているかどうかが一つの目安となります。
また、自社だけではなく同業他社との比較で数値を見ていくことが大切です。
売上高営業利益率に比べて売上高経常利益率の比率が極端に低い場合、支払利息などの営業外損益が利益を圧迫している可能性があります。
それでは売上高経常利益率の例を挙げてみたいと思います。
上図のとおり、売上高経常利益率を算出してみると3.368%となりました。
目標数値が4%であるため目標値には若干足りていません。
ここでは業界平均値や同業他社の数値は考慮していないですが、数値だけを見ると営業外費用が利益を圧迫しているのではないかと推測することができます。
収益性を測る指標⑥:売上高当期純利益率
会社の最終的な収益性を測る指標として用いられるのが売上高当期純利益率になります。
その期に偶発的に発生した特別損益を経常利益に加減して法人税等を支払った後に残っている利益が、売上に対してどれだけあるのかを示したものです。
会社が通常の運営活動であげた利益は
- 売上総利益
- 営業利益
- 経常利益
以上の3つで表すことができます。
これらは会社の正常な損益を示すことから経常損益といいます。
これとは別にある年に特別な事情から偶発的に発生した収益と費用を特別損益といいます。
- 災害によって被害を受けた(損失)
- 固定資産を売却した(収益)
⑥売上高当期純利益率について
売上高当期純利益率 = 当期純利益 / 売上高 × 100
目標となる数値:2%以上
- この比率が高いほど、最終的な会社の収益力が高い
- この比率が低いほど、最終的な会社の収益力が低い
売上高当期純利益率は高いに越したことはありませんが、特別損益のないようによって利益率が増減します。
特別損益は毎期生じるものではありませんが、その損益の原因についてはしっかりと把握しておくことが求められます。
それではこの売上高当期純利益率を用いた例を挙げてみます。
上図のような損益計算書から売上高当期純利益率を算出すると、2.736%となりました。
目標数値は2%ですので、最終的な会社の収益力は強いといえます。
収益性を測る指標⑦:売上高販管費率と売上高人件費率
会社を運営する際に「コスパが良い」といった場合、このコスパは同じ経費をかけた際にどれだけ儲かるかを意味しています。
つまり同じ利益を上げるためにかける経費は少ない方が良いわけです。
今回は会社が営業活動をするうえでかけているコストが売上高に対してどのぐらい負担になっているのかを示す数値を算出していきます。
これまで収益の面からいくつかの指標を算出してきました。
これらは数値が高ければ高いほど良好であることを示しましたが、コストを算出する今回の指標については数値が小さいほど優れています。
売上高販管費率の計算方法
売上高販管費率 = 販管費 / 売上高 × 100
目標となる数値:20%以下
- この数値が大きいほど、営業利益を出す力が弱い
- この数値が小さいほど、営業利益を出す力が強い
コストを示す指標ですので数値が小さい方が優れています。
会社の運営にかかる販管費が多くかかっていないか、コストを売上高が十分吸収できているかをみる指標となります。
売上高人件費率の計算方法
売上高人件費率 = 人件費 / 売上高 × 100
目標となる数値:10%以下
- この数値が大きいほど、人件費が利益を圧迫する
- この数値が小さいほど、人件費が利益を圧迫しない
この指標から分かるのは、余剰人員がいるのではないか、人員あたりのマンパワーの低下などが考えられます。
したがってこの数値が小さいほど一人当たりの仕事の質が良いともいえます。
売上高販管費率や売上高人件費率は、業種によって大きな差が出る指標になります。
人手のかかるサービス業では販管費も人件費も製造業などに比べて多くかかる傾向があります。
そのため比率が30%〜40%あったからといって一概に危険だと判断するのは早計です。
それではここでは今回解説した2つのコストを算出する指標を使った例を挙げてみます。
上図のとおり、損益計算書からコストの指標をあらわす
- 売上高販管費率
- 売上高人件費率
この2つの指標を算出することができます。
売上高販管費率は13.125%、売上高人件費率は8.125%となっておりどちらの指標も目標数値以下となっているため低コストを実現できているといえるでしょう。
収益性を測る指標⑧:損益分岐点
損益分岐点という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
この損益分岐点は、言葉のとおり利益と損失がちょうど分岐する点です。
この点を越えて売上が上がれば利益が出るという最低限のラインを知ることができるものになります。
とある会社の損益分岐点についてあらわしたのが上図になります。
この図をもとに次の例題を解いていきます。
Q .売上高10億円、固定費4億円、変動費5億円のこの会社の損益分岐点売上高を求めよう
まずグラフの縦軸に費用、横軸に売上高を指定して、費用と売上高が同額になる点を結んだ直線を引きます。
この直線を売上高線です。
次にこの会社は固定費が4億円とあるので、費用メモリ4のところに点線を書きます。
この固定費は売上がどれだけ多くても少なくても必ず発生する費用です。
この固定費の発生する点から売上高(10億円)と総費用9億円(固定費に4億円、変動費に5億円かかっているので)の交わる直線を引いたものが総費用線となります。
この売上高線と総費用線の交わるところが損益分岐点になります。
損益分岐点を上回ると利益が出るということです。
それでは、ここから損益分岐点売上高を求めていきましょう。
損益分岐点売上高をもとめる計算方法
限界利益 = 営業利益 + 固定費 ①
= 売上高 ー 総費用( 固定費 + 変動費 )+ 固定費 ②
= 売上高 ー 変動費 ③
この①〜③のどの計算式でも限界利益を求めることができます。
限界利益率 = 限界利益(営業利益 + 固定費) / 売上高
- この割合が高いほど、会社の収益力が高い
- この割合が低いほど、会社の収益力が弱い
損益分岐点売上高 = 固定費 / 限界利益率
- 損益分岐点が低い会社ほど、儲けを生み出す力が高い
以上の計算式から、上図の例題を解いていきたいと思います。
まずは限界利益をもとめていきます。
②の式を用いて算出すると
限界利益 = 売上高 ー 総費用(固定費 + 変動費)+ 固定費
= 5 / 10
= 0.5
以上のように限界利益が10億円であることがわかりました。
続いて損益分岐点売上高を求めていきます。
損益分岐点売上高 = 固定費 / 限界利益率
= 4 / 0.5
= 8
このように損益分岐点売上高をもとめることができました。
会社の収益性を測る指標:まとめ
今回は会社の収益性を測る指標として次の9つについて解説してきました。
- ROA(総資本計上利益率) : 5%
- ROE(自己資本当期純利益率) :10%
- 売上高総利益率 :20%
- 売上高営業利益率 : 4%以上
- 売上高経常利益率 : 4%以上
- 売上高当期純利益率 : 2%以上
- 売上高販管費率 :20%以下
- 売上高人件費率 :10%以下
- 損益分岐点
それぞれの指標について忘れてしまった方は、今回の記事をもう一度さらっと見直してみましょう。
これらの指標を使い、会社が稼ぐ力があるのかどうかについて検証してみましょう。
次回は、会社の安全性を測る指標について学んでいきます。