目次
財務三票や経営分析の指標を役立てていくために
これまで10回に渡って決算書について解説してきました。
まだ読まれていない方は是非こちらもお読みいただけるとさらに理解が深まると思います。
当記事では決算書について、超初心者の方に向けて記事を書いています。
記事を読んでもらうことで少しでも決算書に興味を持ってもらえたらと思います。
全10回プラスアルファの記事をお読みいただくことで、超初心者からの卒業を目指します。
今回の記事ではこれまでに学習した決算書、主に財務三表と経営分析の5つに分類される指標などを用いてどのように会社の分析をしていったら良いかについてのポイントをいくつかご紹介します。
これらのポイントを理解し、それぞれ気になる会社分析に役に立てていただけたらと思います。
決算書の変化から会社が成長しているかを予測・検証する
会社が成長しているかどうかについては、1期分の決算書だけでははっきりと読み取ることができません。
できれば前期、前々期と遡って決算書を比較することが大切です。
- 決算書類はできれば3期〜5期分あれば会社の成長を予測しやすい
- 損益計算書の業績(収益と利益)を比較する
- 貸借対照表の資本ストックの動向を比較する
会社の決算書を評価するときによく使われる表現があります。
- 増収増益
- 増収減益
- 減収増益
- 減収減益
このような表現は前期と比較した結果であらわされるもので、会社の業績は1期分の決算書だけではできないということです。
これらを図で表すと次のようになります。
貸借対照表も損益計算書のどちらも見るべきポイントが増えていれば、会社のお金が増えてきたといえるでしょう。
決算書は社内の比較だけではなく同業他社と比べるためにある!
決算書に出てくる数値をより明確に評価するためには同業他社の決算書と比較することが求められます。
自社だけで見てみるとそれなりに成長しているように見えても、同業他社と比較しなければその成長具合が適正なのかどうかは分かりません。
また、決算書から読み取れる評価は分析をする人によって着目する点が異なります。
- 負債は増えているが取引量がより拡大しているかを重視する人
- 会社の成長具合は微増でも財務がしっかりとしているかを重視する人
上記のように分析をする人が何を重視しているかでその会社の評価は変わってきます。
もしあなたがその会社に出資するかどうか検討している投資家だったら
ひとつ例をあげてみましょう。
あなたが収益性を重視して会社の成長具合を検証したい場合には次のようなデータを検証する必要があります。
- 商品の競争力をあらわす売上総利益
- 本業の収益力をあらわすす営業利益
- 出資した資本が有効活用されているかを表すROE(自己資本当期純利益率)や自己資本回転率
また、別の例としてはあなたが営業マンだったとして新規開拓先を探していた場合には
- 新規開拓先の支払い能力をあらわす流動比率
- キャッシュフロー計算書でお金の流れを確認する
このように会社を分析する際には、分析する人が気になっている項目によって比較検討の箇所が異なってきます。
分析する項目は異なっても、やはり検討の際には数期分の決算書が必要です。
気になる指標をチェックしつつ、数期分の決算書を見ることで会社全体の成長を見ることができるからです。
次の項目でも解説することですが、これら他者との比較分析は同業他社で行われます。
異業種間での比較は、あまり参考にすることができません。
異業種の会社同士では単純に比較することはできない
決算書から読み取ることができる数値から業績を比較する際に、すべての会社を同じ基準で検討することはあまりおすすめできません。
なぜなら人・モノ・金の使い方は業種や業態によって経営方針がかなり異なるからです。
- 人(人件費)にお金がかかる業種
- モノ(設備投資)にお金がかかる業種
- 金(元手)の調達を借入金に多く依存する業種
以上のように業種によってお金を注力する分野が異なることから、決算書の数字を利用した指標分析はやはり同業他社での比較が向いているといえます。
危ない会社の見分け方①:本業の収益力がない会社
企業活動をしている会社の目的は、利益を上げて元手(資本)を増やしていくことにあります。
つまり危ない会社とは、儲かっていない会社であるということができます。
そしてこの儲かっていない会社は2つに分けることができます。
- 利益が上がっていない会社
- お金がない会社
危ない会社かどうかを見るポイント
例えば上図のような会社があったとします。
この会社の当期純利益はプラスになっているのは分かりますよね。
しかし、本業で儲かっているかどうかを確認してみましょう。
上図のように本業の利益(営業利益)がマイナスになっているのが分かります。
営業外収益がプラスで計上されているために全体で見ると利益が出ている損益計算書です。
営業利益は、本業での利益を表すのでここがマイナスだと本業がうまくいっていないということ
危ない会社の見分け方②:手元に現金を持っていない会社
前項では営業利益がマイナスだと要注意だと説明しました。
危ない会社のポイントはもうひとつあります。
それは利益が出ているのに手元に現金がない会社です。
このような状態かどうかをみるには、キャッシュフロー計算書をチェックします。
自分の会社がどこに当てはまるのかをチェックしてみる
前述の通り営業利益がプラスになっていれば本業が順調であることを意味しています。
逆に経常利益でプラスになっていたとしても営業利益がマイナスだった場合には、本業がうまくいっていないということです。
それを踏まえた上で検証する会社が下図のどこに位置しているのかを今一度確認してみましょう。
危ない会社の見分け方③:回収のサイクルが悪化している
企業経営をしていると、現金の受け取り(回収サイクル)や支払い(支払いサイクル)が常につきまといます。
このお金の出入りに着目してみた場合、次のようであれば安心できるといえます。
- 回収サイクルが支払いサイクルを上回っている状態
ということは回収サイクルが遅くなり、支払いサイクルが上回った場合は手元のお金が徐々に減っていくこととなりかなり危険な状態であるといえます。
売上高が上がっても債権も増えてきたら注意!
上記のように回収サイクルが悪化して支払いサイクルが上回ってくる状況になっていないかを検討するためには、売上と売上債権の増減に注目し、検討していきます。
- 数期分の決算書を準備する
- 損益計算書の売上高推移をチェック
- 貸借対照表に計上されている売上債権とのバランスを比較する
以上の手順で比較した結果
- 売上高の増加に応じて売上債権も増加している:問題なし
- 売上高の増加以上に売上債権が増加している:要注意
- 売上高が減少しているにもかかわらず売上債権が増加している:かなり危険
これを図で表すとこのような感じとなります。
このように視覚的に見てみると実感しやすいと思います。
経営分析の指標では売上債権回転期間の指標を用いて回収サイクルを分析します。
危ない会社の見分け方④:支払いのサイクルが悪化している
前項で解説した売上債権の回収サイクルの対になるのが仕入れ債務の支払いサイクルです。
経営分析の指標では仕入債務回転期間の指標を用いて支払いサイクルを分析します。
ここで仕入債務回転期間の指標の計算式をあらためて表記します。
仕入債務回転期間 = 仕入債務 / 売上原価 × 365
この仕入債務回転期間に異常が出ていないかを検討するには、仕入債務と売上原価の増減に注目して分析を行っていきます。
- 数期分の決算書を準備する
- 貸借対照表の仕入債務の増加推移をチェック
- 損益計算書の売上原価の増加をチェックして仕入債務と比較する
以上の手順で比較した結果
- 仕入債務の増加と比較して売上原価の増加が抑えられている:問題なし
- 仕入債務の増加以上に売上原価が増加している:かなり危険
これを図で表すと次のような感じとなります。
支払いサイクルが急激に短くなったらかなり危険
支払いサイクルは長ければ長いほど良いわけではなく、回収サイクルと比較したときに長ければ良いと考えましょう。
これには理由があり、
- 支払いサイクルが通常よりも長すぎる場合、支払い能力が低下している可能性が高い
また、これ以上に要注意なケースがあります。
それは支払いサイクルが急に短縮した場合は危険性がかなり高いです。
こちらも考えられる理由として、
- 業績悪化のために債権の回収を急いでいる場合
- 仕入債務が急減した場合には、その会社が取引先に納品を制限されている場合がある
貸借対照表に「前渡金」が計上されていたら危険信号
これまで商品や材料の仕入れ取引で掛け取引を行っていた会社が、突然現金取引へと変わることがあります。
これは貸借対照表に「前渡金」として計上されることになります。
掛け取引が現金取引に変更になったということで考えられるのは、会社の信用度が低下している可能性があるため流動資産に前渡金を確認した場合には、会社の倒産も頭に入れておく必要があるということです。
危ない会社の見分け方⑤:元手が減り続けている
会社が企業経営を行う目的は、利益を上げて成長していくことにあります。
会社が利益を上げていくと手元の資本も増えていきます。
これとは逆に利益が上がらないままで経営を続けていくと元手は当然増えず、資本を減らしていくことになります。
このような資本を減らし続けていくといずれは
- 累積債務
- 債務超過
このような状態になってしまいます。
特に債務超過の状態は、会社の倒産を暗示しているため危険度が非常に高い状態といえます。
累積債務と債務超過
会社の状態が累積債務なのか債務超過なのかは、貸借対照表を見ることで一目で判断することができます。
累積債務を抱えている会社の状態
上左図のように、剰余金がマイナスになっており且つ資本の合計が資本金よりも少なくなっている状態を累積債務を抱えた状態といえます。
債務超過に陥った会社の状態
累積債務を抱えた状態がさらに悪化すると上右図のようになり、資本の合計がマイナスの状態になると債務超過となり非常に倒産の危険度が高い状態といえます。
債務超過の状態では会社に現金は残っておらず、株主や出資者から集めた資金も当然ながら残っていないということです。
このような会社の安全性を見る指標として、自己資本比率がありました。
自己資本比率 = 自己資本 / 総資本 × 100
この自己資本比率の目安となる数値は50%でした。
- 割合が高いほど、会社の財務体質が安定している
- 割合が低いほど、会社の財務体質が不安定である
債務超過の状態が3年間続くと、会社は実質的に倒産の状態であるといえます。
ちなみに上場している会社が「5年間無配当で、3年間債務超過が続いた」場合、上場廃止の基準に該当することとなります。
経営分析ができるサイト
これまで全10回プラスαで決算書についての解説及び経営分析の指標と使い方について解説してきました。
これらの指標を使った分析を自分で行なっていくのが望ましいですが、次のようなサイトを用いて業界の平均値と比較するというのも一つの手であると思っています。
こちらの経営分析は業界別にデータが豊富にあるため気になる方は是非こちらもご活用ください。
会社を分析しよう+α:まとめ
全10回+αで決算書の見方と会社の経営状態を知るための指標、そして実際に会社分析の方法と解説してきました。
これらを理解することで、会社を分析する基礎力はついたのではないかとおもいます。
実際に自分の会社の決算書を見ることができれば、ここで学習したことを仕事に活かすこともできるかもしれませんが、こうした決算書は会社のお金のやり取りを記録するものなのでなかなか見ることが難しいかもしれません。
せっかく決算書の読み方を理解できても実践で活かすことができなければ、きっとすぐに忘れてしまうでしょう。
ですので会社の決算書を見る立場にない方は、上場している同業他社などの決算書を一度見てみるのはいかがでしょうか。
決算書の見方を理解してもすぐに仕事に活かすことができるかどうかは分かりません。
しかしそもそも知らなければ、そうしたチャンスが目の前に飛び込んできても何もできませんよね。
ですので今後そうした状態になったときに振り返って見てもらえると嬉しいです。
最後までお読みいただきありがとうございました。